Cannondaleは人の名前(後編)

前編はこちら)(中編はこちら)

自転車メーカー「Cannondale」は駅の名前、しかしその駅名・地名にキャノン砲は関係がない。

19世紀にこの地で隆盛を極めた、「キャノン家」という名士一族に由来する。

そして駅に置かれた郵便局の存在で、街の名前も変わった。

では、なぜ「デール」が付いたんだよ?

実はこれも郵便局が運命を決めた。

1870年に駅に置かれたCannon Station郵便局は、1882年に「Cannon郵便局」に改名される。

当時の郵便局も局名に駅とつくのが面白くなかったのかも(笑。

そして1892年、現在の駅舎が完成する。

ところが。

1896年、郵便局は再び「Cannon Station郵便局」に戻されてしまう

どうもね、コネチカット州には北部に「Canaan(カナーン)」という街があって、紛らわしかったらしいんだ。

スペルも似ているし、聞き間違いも多かったんだろうね。

でも、元に戻ってしまったのでは元の木阿弥。

そして1915年、再び郵便局の改名が行われる。

今度こそ、簡単に戻せるような名前であってはならない。

そして付いた名前が、「Cannondale郵便局」。

必然、郵便局に根差していた地名も変わるわけで、ここに晴れて「Cannondale」という地名が誕生する。

日本は大正4年、世界は第一次世界大戦の真っ只中だった。

Cannondaleへの改名に関わったのは、サミュエル・ミラー(Samuel.J.Miller)という人物。

アメリカにはGrangeという農民共済組合(農協?)があって、この地域にも1899年にCannon Grangeってのが発足している。

ミラーさんはこのCannon Grangeの初代理事長を務めた人で、言わば当時の名士・重鎮。

辞書を開けば、「-dale」ってのは「谷」を意味するとある。

確かにノーウォーク川は流れているし、池や湖が非常に多い土地でもあるけど、谷と呼べる地形じゃないんだよ。

恐らく、「~デール」という語感を好んだというのが真相じゃないかな?(笑。

※日本語で谷と言われると峡谷を想像しますが、英語圏での感覚としては、丘部分に対する窪地地形をdaleというそうです(2011年2月15日訂正)。

改名の折、ミラーさんは南北戦争のガルベストンの戦い(Battle of Galveston)で使われた大砲を街に置く。

これが駅前の大砲。

古今東西、地元の名士は重いものを置きたがるもんなんだな(笑。

ただ、ガルベストンの戦いは南部のテキサスで起きた会戦なんだ。

つまり、大砲自体は由緒があるものの、この土地に直接の由来があるわけじゃない

あえて言うならシャレであり、池袋の「いけふくろう」に近い(笑。

←いけふくろう氏

そのせいなのかどうかは知らないが、あの大砲はハロウィーン騒ぎでひっくり返されたり、車にタックルされたりと、結構酷い目にあっているそうな。

しかし、このシャレが歴史を変えるのだ

この写真は1965年10月のキャノンデール駅。

この2年後の1967年、キャノンデール郵便局は閉鎖され、97年の歴史に終止符を打つ。

郵便局の名前が地名になる時代はとうの昔、キャノンデールという地名はそのまま残った。

そして1970年にジョー・モンゴメリーさんが漬物屋のロフトでカバン屋を創業し、自転車メーカーの歴史が始まる。

Cannondale Corporationの1973年のカタログにはこう書いてある。

(中略)We still hadn’t gotten around to having a phone put in.

Peter meyers, who would soon become head of the shipping department, was hastily dispatched to the pay phone across the street to order one.

Peter relayed the particulars concerning the listing and was about to hang up when the women at the other end realized she had not gotten the name of the business.

peter paused.

he looked out over the town green to the rusty cannon and inscription “dale”, then back across the street to the old train station.

“Um, why, Cannondale Corporation,” he said.

(1973 Cannondale Corporation catalog)

要するに、創業メンバーのピーターさんが、電話口でサミュエル・ミラーが55年前に置いた大砲を見て、とっさに生まれたのがキャノンデールという社名、ということだ。

シャレは伝説になった(笑。

 ■

今回、キャノンデールという街の歴史を調べていくうち、自転車ブランドは単に名を借りただけとは思えなくなってきたんだ。

例えば、農家であり、服飾メーカーであり、土木事業者でもあったチャールズ・キャノンのドラスティックな商魂。

同じく服飾から自転車製造、モトクロスバイク製造へと派手に展開していったモンゴメリーさんのビジネスに通じるものを感じるんだよ。

また、Hand Made In USAという看板を頑なに守ろうとしたことも、基本的にはモンゴメリーさんのビジネスセンスとはいえ、アメリカの歴史を誇らしげに守るこの街の空気も少なからず影響したようにも思える。

モンゴメリーさん自身はオハイオ出身だそうだけど、キャノンデールはアメリカ大好き、アメリカ万歳な街で生まれ育ったメーカーなんだよな(笑。

新しいことを思いついては世界中からツッコミを食らい、それでも簡単には引っ込めない。

それがいい所であり、悪い所でもあり、面白い所なんだけど(笑。

現存するキャノンデール駅は1892年(明治25年)の建造。

駅は1852年開業なんで、40年目に建てなおされたもの。

「なーんだ」と言ってはいけない。

1892年って、芥川龍之介、きんさんぎんさんが生まれた年。

「坂の上の雲」で言えば、正岡子規が新聞「日本」に入社した年だから、やはり相当に大昔。

今年で築119年、来年には大還暦を迎えるという、19世紀の貴重な歴史遺産。

今も駅として現役でありつつ、カフェとしても営業中。

元郵便局にU.S.Postalの青いポストがちょこんと置いてあるのも因果ではある(笑。

その名をパクって世界のトップブランドに登りつめた自転車ブランド、キャノンデール。

駅前で大還暦記念イベントを開いてもバチは当たらない。

そして4年後の2015年、Cannondaleという地名が命名100周年を迎える

この地で創業したのはドレルではないけど、ブランド発祥の地に違いはない。

ドレルにも何らかのアクションを期待せずにはいられないね(笑。

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8 Responses to Cannondaleは人の名前(後編)

  1. NOBRAND says:

    >komezouさん

    そうですよね。
    母国語じゃないから感覚的な違いがよく判らないですよね(笑
    私も区別がなんとなく判ってスッキリしましたよ~(笑。

  2. komezou says:

    ・・・とは言え、本当はどうだったのか?
    ただその写真家がそう思っていただけかも知れませんので、当時の方がどう思っていたのか?
    今はどう谷を表現するのか?は英語は苦手なので私には判りません。
    当時記録で、名前の由来でも調べられれば良いのですがね〜!

    でも、Cannon家と言うのは私は知らなかったので、この三部作は勉強になりました。

  3. NOBRAND says:

    >komezouさん

    なるほど、そういうことなんですね。
    あとあと誤解されないように修正しておきましょう。
    ありがとうございます!

  4. komezou says:

    個人的に学生時代に、ある外国人写真家に教えてもらったことなんですが、Daleと言う言葉は一般的には「谷」なんですが、風景の世界では丘陵地帯にある川の周りの低くなっている部分に使われる事が多いらしく、丘に対しての谷と言う表現だそうです。

    川がちょっとした谷になっているものはValeと表現する事があるそうです。
    多分私達が谷と言う言葉で思い出す景色はDaleではないのではないかと・・・。
    ご存知のように、深く大きなものはValleyだったりと言う表現なんですよね。
    Valleyは谷、渓谷、流域、狭間、谷間。。。
    だから風景では、丘があれば窪みはValeではなくDaleと表現するそうです。
    基本的には同義語なのですが、ちょっとした日本の表現違いのような意味があるようです。
    川の流域と言う表現ならばValleyだけれど、丘陵地帯の低い部分だからDaleなんではないでしょうか?

    書かれているようにキャノン家が存在しているのであれば、キャノン家があった丘陵地帯の窪地だから「Cannondale」と付けられたのでは?と推察出来ます。

  5. NOBRAND says:

    >GENさん

    いやいや、長々と有難うございました(笑。
    私も書きながら自転車ネタであることを忘れていましたから、無理ありません(笑。
    駅が起源なのはもうみんな知ってるし、じゃあ駅は何処から来たかで話が膨らめばと思いました。
    実際、英語版のWikipediaの内容を少し膨らませただけなんですよ(笑。

  6. GEN says:

    やぁ~ 今回の3部作は凄かったです!
    キャノラーのつもりの私も正直どうコメントしていいかわからなかったです。
    ウィキペディアよりも凄かった!

    また色々教えて下さい!

  7. NOBRAND says:

    >Motoさん

    お付き合いいただいてありがとうございました。
    こんな長いお話を読んでくださった方がいて嬉しいです!

    ウィルトンの図書館に行けばもっと判るのでしょうけど、ネットではこのくらいが精一杯でした(笑。
    キャノラーとしては、一度は行きたい場所ですね~(笑

  8. Moto says:

    これを調査するところがスゴイ!そして人を惹きつける文章が素晴らしい! Cannondale をいかに愛しているかが伝わってきましたよ。いやぁ~ちょ~楽しかったぁ~~!! 

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